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大阪高等裁判所 昭和42年(う)922号 判決

被告人 株式会社するが屋 外一名

主文

原判決中被告株式会社兵庫するが屋に関する部分を破棄する。

被告株式会社兵庫するが屋を罰金三万円に処する。

被告人門元繁夫の控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人間狩昭作成の控訴趣意書に記載のとおりであるからこれを引用する。

控訴趣意中法令適用の誤の主張について

論旨は、被告人両名の原判示各行為は各労働者、全違反期間を通じて包括一罪と解すべきであるにもかかわらず、これを各週毎、各労働者個人別の併合罪として処断した原判決には、判決に影響を及ぼすべき法令適用の誤があるというのである。

よつて判断するに、労働基準法六〇条三項は、労働者に対する一日八時間、一週間四八時間の労働時間の原則を規定した同法三二条一項の法意を受けて満一五才以上で満一八才に満たない者に対する労働時間の基準を定めたものであつて、右六〇条三項は、年少労働者については、その健康の保護向上をはかるために同条所定の場合においても一週間の労働時間が四八時間を超えることを禁止したものであるから使用者が右規定に違反し、多週にわたつて多数の年少者を、週四八時間を超えて労働させた場合には、特段の事情ある場合を除き、その使用各週毎に、各労働者個人別に、独立して同条違反の罪が成立すると解すべきであつて、これを包括して一罪が成立するという所論は当らない(昭和三四年七月二日最高裁判所第一小法廷決定、集一三巻七号一、〇二六頁)。そして本件においては、記録を調査しても右特段の事情は認められないから、原判決が原判示各週毎、各労働者別の併合罪として処断した点においては何ら法令適用の誤はない。

控訴趣意中被告人門元繁夫に関する量刑不当の主張について

論旨は原判決の量刑が重きに過ぎるというのであるが、記録を調査し、本件犯行の動機、態様、ことに被告人門元は本件以前に二回にわたつて労働基準監督官の注意を受けていること、その他諸般の事情を考慮すると、所論の諸点を参酌しても、原審が被告人門元に対し罰金四万円に処した量刑は不当に重いとは考えられない。論旨は理由がない。

しかし、原判決中被告株式会社するが屋に関する部分について職権により判断するに、原判決は、法人である被告会社に対し、労働基準法六〇条三項、一一九条一号のほかに同法一二一条二項を適用して処断しているが、同項は、事業主に同項所定の不作為あるいは作為があつた場合においては事業主も行為者として罰する旨規定しているけれども、同項にいう事業主とは、それが法人である場合においてはその代表者をさすものであることは、同条一項但書の規定によつて明らかであり、本件のように法人の代表者に違反行為のあつた場合における法人の処罰は、同条一項本文の規定によるべきものである(事業主たる法人の代表者は、同項の代理人といううちに包含されている趣旨と解すべきことについては、昭和三四年三月二六日最高裁判所第一小法廷決定、集一三巻三号四〇一頁参照)から、原判決の法令の適用には誤があるといわなければならない。しかも、右一二一条一項本文と同条二項とでは、犯罪の主体、構成要件、科せられるべき刑罰のすべてを異にするから、右誤は判決に影響を及ぼすことが明らかである。従つて、量刑に関する判断をするまでもなく、原判決は右の点において破棄を免れない。

よつて刑事訴訟法三九六条により被告人門元繁夫の控訴を棄却し、同法三九七条一項、三八〇条により原判決中被告株式会社するが屋に関する部分を破棄し、同法四〇〇条但書により当裁判所においてさらに判決する。

原判決が被告株式会社するが屋について認定した事実に、労働基準法六〇条三項、一一九条一号、一二一条一項本文、刑法四五条、四八条二項を適用し、被告会社は被告人門元のいわゆる個人会社であること、その他諸般の事情を考慮して主文二項のとおり判決する。

(裁判官 山崎薫 尾鼻輝次 大政正一)

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